第4回 体験生活ノススメ

近頃、田舎暮らしを希望する人が増えているという。テレビ番組でも都会から田舎に移住し、田舎の生活を楽しんでいる人の生活振りを伝えている。テレビ番組を見ていると、田舎生活の良い面ばかりが強調されて、その裏側に潜む「負」の側面には余り触れていない。このようなテレビ番組を見て触発された人が、いきなり田舎暮らしを始めても、田舎の厳しい気候風土に耐えかねて、途中で逃げ出すことにもなりかねない。そこで、田舎暮らしの失敗を回避するために、一度、いや最低二度は体験生活をしてみることをお勧めする。世界網(インターネット)などで情報を集めるのも良いが、現実を肌で感じるには実際に生活してみるのが一番だからである。「生活」である以上、一日や二日では短すぎ、最低一週間、出来れば一ヶ月くらい滞在することをお勧めする。滞在期間が短すぎると、単なる観光旅行になってしまい、うわべだけをさらっと撫でるだけで終わり、田舎の本当の良さがわからない可能性がある。体験生活は、一度は最も良い季節、そして一度は最も厳しい季節をお勧めしたい。

先ず、最も良い季節。

信濃町の場合は四月下旬の大型連休頃から五月いっぱいと、梅雨明けの七月下旬から九月いっぱい頃の間が最も良い季節だ。四月下旬頃は、桜の花が散るのを惜しむかのように残っており、こぶし辛夷の花も咲いている。ようやく融けた雪の下から出るフキノトウ、コゴミ、タラの芽等の山菜も豊かだ。北信五岳の山々は、寒々とした無彩色な冬枯れの景色から、淡い黄緑色の春の景色に変貌する。次に、七月下旬から八月頃は、夏の盛りとはいえ、信濃町はあくまでも気候は爽やかである。都会では気温四十度を越す焦熱地獄でも、ここは日陰にいれば汗をかくことが無い。まさに極楽である。元々気候が冷涼である上、吹いてくる風は緑の葉陰の間を通って来るうちに冷やされ、瞬く間に汗を持ち去ってくれる。信濃町では、お客商売をしているところを除き、一般家庭で冷房機を備えているところは殆どない。こういう時期の体験生活は、絶対信濃町に移住しようと思わせるに違いない。

春の訪れ次に、最も厳しい季節の体験生活。

信濃町の最も厳しい季節は、やはり十一月から三月いっぱいであろう。ここは、北海道並に寒いところで、十月下旬頃には氷が張り、十一月には雪が降り始める。一月に入ると本格的に雪が積もり、一メートル以上の積雪も珍しくない。気温は一番冷えるときで氷点下二十度くらいまで下がる。信濃町の殆どの家庭では除雪機を備えている。これが無いと車庫から自動車を出せないのだ。水道には必ず凍結防止装置が施してあり、十月下旬には電源を繋ぐ。こういう時期の体験生活を経てこそ、田舎生活の実態を肌身に感じることが出来る。

体験生活を通して、田舎の暮らしをゆっくりと味わっていただきたい。このような体験は、移住の決断と準備をする上で、必ずや有益となるであろう。