第11回 キノコを味わう

我が家は木立に囲まれている。南側は築百年になる旧古間小学校の敷地内の植え込み。北側は「みどりの村」という別荘地の山林。東側は畑を隔てて私有林が広がっている。そして、西側は狭いながらも我が家の庭の植え込みがある。 私がここ信濃町に移住するに際して今の我が家を購入したのは、木立に囲まれているところが気に入ったからである。

さて、この家に住み着いてから二年程は、我が家の庭に「ムラサキシメジ」という食用キノコが自生していた。このキノコはとても美味なキノコで、茹でこぼして大根おろしと和えて醤油をかけて食べたら、山の味と風味が口中に広がった。勿論地酒の冷酒と共に。この時ほど「ああ!俺は田舎暮らしをしているんだ・・・」としみじみと感じたことは無い。実に幸せな気分であった。

ところが、

クリタケ

クリタケ

その後、梅雨時に大量発生する「ヤスデ」を駆除するために殺虫剤を散布したせいか、ムラサキシメジは全く出なくなってしまった。真に残念である。これでキノコはもう食べられないのかと一瞬頭をよぎったが、ここで諦めてはならない。早速近所の森にキノコを探しに行き、あちこち歩き回ったが、どこを探しても目的のムラサキシメジは見つからなかった。

それ程広範囲に探したわけではないが、このキノコはこのあたりでは我が家の庭にしか自生していなかったのだ。それでも諦めきれずにキノコを探し続けると、東側の畑を隔てた私有林で「クリタケ」が見つかった。このキノコは猛毒の「ニガクリタケ」と酷似しているため気をつけなければいけない。うっかり間違えて食べると入院を余儀なくさせられた上に新聞に書きたてられるはめになる。
しかし、クリタケは四十年前頃私がいつも食べていたキノコなので良く知っており、ニガクリタケと間違えることは無い。早速採取する。採って裏を見ると「ヤケヤスデ」という五センチメートルくらいのヤスデが何匹も食い込んでクリタケを食べている。ヤスデを一匹ずつ払い落としてキノコをかごに入れる。家に持ち帰って、茹でこぼして大根おろしと和えて醤油をかけて食べた。
このキノコの味はムラサキシメジ程ではないが、それでも山の味と風味が口中に広がった。こういう時は地酒の冷酒が無くてはならない。クリタケの味と冷酒が五臓六腑に染み渡り、まさに極楽気分である。至福の時と言うべきか。

本日の収穫

本日の収穫

同じ森でクリタケ以外にも「カタハ」という食用のキノコも見つけたが、このキノコは猛毒の「ツキヨタケ」にそっくりで素人では殆ど見分けがつかない。間違って食べたらへたをすると命に関わるので、「カタハ」は食べないことにした。キノコを食べていくら至福の時を過ごそうと思っても、一歩間違って極楽から地獄に落ちてはしゃれにならない。

現在私は一人暮らしなので、キノコを採取する場合、私一人が一食か二食で食べきれる量だけしか採取しないことにしている。キノコ採りに行くと、つい夢中になり大量に採ってしまいがちだが、それでは山が荒れる。キノコは適当な量だけ採るのが良いのだ。

こうして私の田舎暮らしの秋は暮れたのであった。

(荻原一正)