立秋が過ぎて暦の上ではもう秋だと言うのに日本全国暑い日が続いている。私が住むここ信濃町は元来冷涼なところで、最高気温が三十度を超すことは殆ど無かったのだが、今年は気温三十度を越す日が幾日かあった。このような日は信濃町と言えどもさすがに真夏の暑さを感じる。六月と七月梅雨の期間の気温が低く、半袖一枚では肌寒い日があったことを思うと、気温の変わり様は極端ともいえる。
ところで、私は町から畑を借りて少しばかり家庭菜園をやっている。今年は五月の作物を植えつける時期に気温が低く、通常の野菜では育たないと思い、近所の人とも相談の上、ジャガイモと長ネギを多めに植えつけることにした。
去年は近くのスーパーで売れ残りの品質の悪い種芋を植えたところ、余り良い出来栄えではなかったので、今年は専門の種屋さんからしっかりした種芋を買ってきた。去年の倍以上植えたジャガイモは、地元の人が褒めてくれる程の出来であった。 そして八月になって収穫時期が到来したのである。農業の巧みな近所の人に収穫時期を聞くと、ジャガイモの木が倒れて枯れていれば収穫時期だという。今、将にその時だ。早速ジャガイモを掘ってみると、どうも様子がおかしい。通常は一本の木に七個から八個のこぶし大のジャガイモがついている筈なのに、二個か三個ぐらいしかジャガイモがついていないのだ。あとは親指大の小さなものばかり。中には一個もジャガイモがついていない木もある。一うね畝掘っても一輪車の底が埋まる程採れないのだ。その上鼠に齧られた芋もたまにある。これはきっとジャガイモの花を摘むのが早すぎたのだろうかとか、雑草だらけにしたため雑草に養分が吸い取られてジャガイモに回らなかったのだろうか・・・・、等々と思い巡らしたがどうも合点がいかない。
例の農業の巧みな近所の人にジャガイモの出来栄えを話すと、今年はどこも同じような作柄だという。五月の作物を植えつける時期と六月と七月の成長時期に気温が低かったため、ジャガイモが大きくなれなかったのだという。別の人に聞いたところでは、七月の長雨でジャガイモが腐って溶けてしまい、殆ど収穫がなかった地域もあるという。毎年ジャガイモを作っている人達がこの状態なら、全く素人である私の作ったジャガイモが多少なりとも収穫できたことは、むしろ上出来ともいえるかもしれない。まだ三分の一程しか収穫していないが、小さ目のダンボール箱一つくらいは採れた。
早速食べてみる。ジャガイモとしては今年初物だ。先ず「芋のにころばし」。たまたま横浜から来ていた妻が、採れたばかりのジャガイモを甘辛く煮付けてくれた。食味はとても美味いのだが、新ジャガ特有のもちもち感が無いような気がする。調理の仕方なのか、今年のジャガイモ全体にいえることなのかは判らない。次に「ジャガイモのサラダ」。これは自分で作った。妻は既に横浜に戻り、他に作ってくれる人がいないからだ。ジャガイモを四つに切って茹で、柔らかくなったところでお湯を捨て皮を剥く。そして塩コショウをたっぷり振ってからすりこ木でしっかり潰す。最後にマヨネーズを適量かけ充分混ぜ合わせて出来上がり。自分が育てたジャガイモを自分で料理して食べて不味いわけが無い。ジャガイモのサラダを食べて、しばし幸福感に浸った私であった。