第13回 野鳥と戯れる

今年の信濃町は特に雪が多く、例年屋根の雪下ろしは一冬に一回程だが、この冬は正月明けに早くも雪下ろしが必要になった。これ以上屋根の雪下ろしをせずに済むといいのだが・・・。しかし、だからといって薪ストーブの火を眺めながら、日がな一日陰鬱な気持ちで炬燵にしがみついているわけではない。

我が家は買い物至便にもかかわらず、周囲を木立に囲まれているため野鳥の宝庫である。シジュウカラ、ヤマガラ、ゴジュウカラ、コゲラ、アカゲラ、アオゲラ、イカル等の野鳥を一年中見ることが出来る。渡り鳥も多彩で、ツグミ、ウソ、ホトトギス、カケス、オオルリ、キビタキ等の姿を見ることが出来る。ホトトギスの鳴き声を聞いたときは正直感動した。

餌台に来たヤマガラ(左)とシジュウカラ

餌台に来たヤマガラ(左)とシジュウカラ

「鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス」と戦国武将が詠んだといわれるくらい鳴き声が聞けない鳥の代表であるホトトギスの声が自分の家に居ながら聞けるとは、こんな嬉しいことはない。そんな日は、もしかして良いことがあるかもしれないと幸せな気分になる。ただ、山の鳥と里の鳥とで棲み分けしているのかスズメの姿はほとんど見ない。カラスはいる。

ところで、我が家では家の窓の外に餌台を設置し、秋から春にかけてヒマワリの種を野鳥達に与えている。今年で四年目くらいになるが、初めの頃は、野鳥達は警戒してなかなか近寄って来なかった。そのうち少しずつ餌を食べるようになり、一年くらい経つと、餌台に餌を置いてやると、数十羽の野鳥たちが我先にと集まってきて餌を咥えて持ち去っていくようになった。餌台で食べるということは殆どなく、必ず少し離れた高い木の枝に運んで、そこでヒマワリの種の細い方の先端を起用につついて殻を割って食べている。餌がヒマワリの種のためか、寄ってくる野鳥はシジュウカラ、ヤマガラ、コジュウカラ、コガラだけだ。どの野鳥も可愛らしく愛くるしい姿をしている。

シジュウカラが手に乗って餌を食べる

シジュウカラが手に乗って餌を食べる

あるとき、ヤマガラがツルウメモドキの赤い実を咥え(くわえ)てきて、私の目の前で餌台に置いて飛び去って行った。それを見て私と妻は「これはきっとヤマガラの恩返しに違いない・・・」と勝手に解釈し、その赤い実を育ててみることにした。そこで妻は、翌春、小さな植木鉢に土を入れ、赤い実を埋めて毎日水を遣っていた。しかし、赤い実は残念ながら結局芽を出すことはなかった。もし芽が出て大きなツルウメモドキの木に育ったら、信濃町の名所になったかも知れないと思うとまことに残念なことだ。

そして、去年の秋頃からヤマガラが、人間の手に乗って直接餌を食べるようになった。こうなると餌やりが面白くてならない。ヤマガラがその愛らしい小さな足で私の右手の指先をしっかりと掴み、嬉しそうに餌を咥えて飛び立ってゆく様を間近で見ると、小さな体で厳しい冬を健気に生きている野鳥がとても愛おしく感じられる。
更に、この冬になってとうとう警戒心の強いシジュウカラも手に乗って直接餌を食べるようになった。これこそが田舎暮らしの楽しみと妻と話し合っている。

信濃町在住 荻原一正